2016年11月10日

遊子のエクササイズA ~ 177 ~

177       お気に入り 俳・歌・柳 壇 
                                             
 懸命に日ごと生きる九十歳                         
 テレビ体操まねてほお笑む         (常滑市)  す ゑ
             
 夫のいない朝の楽しみまっ先に
 ひらく新聞活字が匂う          (岐阜市)  節 子

 鈴生りの苦瓜ゆらす秋風に
 お前も熟せと言われたような      (大府市)  幸 子 

 暮るるまで遊びつかれて帰る道
 金木犀の香りやさしき         (幸手市)  早 苗

 
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<愛唱歌・画像 >  ❹ 「庭の千草」
          作詞: 里見義(1824 - 1886)
          原曲: アイルランド民謡「夏の名残のバラ」(The Last Rose of Summer)


明治期には、小中学生の音楽教材とするために、ドイツやイギリス、アメリカなどの歌が数多く移入されましたが、これはアイルランドの民謡を取り入れたものです。

 原曲は"'Tis the last rose of summer"ですが、タイトルとしては頭の'Tis(=It is)を省いて“The last rose of summer”と呼ばれるのが普通です。
 明治17年(1884)3月29日発行の『小学唱歌集(三)』に『菊』という題で掲載されました。『庭の千草』というタイトルになった経緯はわかりません。

 原曲の歌詞はアイルランドの詩人トーマス・ムーア(1779-1852)が1805年、アイルランドのキルケニー郡ジェンキンズタウン公園を訪れた際に作ったものと伝えられています。
    
「夏の名残の薔薇」    アイルランド民謡

           The Last Rose of Summer

'Tis the last rose of Summer,               それは夏の名残のバラ
Left blooming alone;                     一輪だけ咲き残る
All her lovely companions        同じ木に咲いた美しき仲間たちはすでに
Are faded and gone;                    色褪せ散っていった
No flower of her kindred,            ともに咲く同じ血筋の花もなく
No rosebud is nigh,                 小さな蕾すらそばにいない
To reflect back her blushes,          仲間がいれば紅の色を映しあったり
Or give sigh for sigh!              嘆きを分かち合うことも叶うのに

I'll not leave thee, thou lone one,        さびしい薔薇よ 私は おまえを
To pine on the stem;            茎の上で嘆き暮らすままにはしない
Since the lovely are sleeping,   愛しい仲間は永久の眠りについているのだから
Go sleep thou with them.                  さあ、共に眠るがいい
Thus kindly I scatter                 こうやっておまえを手折り
Thy leaves o'er the bed            花壇に葉を優しく散らしてあげよう
Where thy mates of the garden               仲間だった花たちが
Lie scentless and dead.             香りもなく散り敷く その上に

So soon may I follow,               まもなく私も後に続くだろう
When friendships decay,                     友情が朽ち去り
And from Love's shining circle          そして愛の輝ける団欒の輪から
The gems drop away!    宝石のような大切な人たちがこぼれ落ちる その時に
When true hearts lie withered,           心を許しあった人が枯れ果て
And fond ones are flown,            愛しき者たちも去ってしまったら
Oh! who world inhabit               ああ、誰が生きて行けようか
This bleak world alone?               この凍える世界に独りきりで
                
アイルランドの国民的詩人トマスムーア(Thomas Moore/1779-1852)による詩を、ジョン・スティーブンソン(Sir John Stevenson/1761-1833)が作曲しました。

・二つの詩を比べてみると、まったく別物であることがわかります。
 日本語版では、薔薇が白菊に変貌しています。モチーフが変わっただけでなく、詩のテーマも大きく変わりました。
 原詩では、同じ一本の木に咲いた薔薇の群れを通して、友情と家族愛の大切さを訴えています。
・たった一輪残った薔薇は、同じ血筋の者もなく、生まれ来る子供たちもいません。仲間がいれば互いの色あいを競って楽しんだり、辛い時は痛みを分かち合うこともできるのに みんな去っていきました。
・ 作者は薔薇に呼びかけます。孤独な薔薇よ。私はおまえをこのまま寂しいままにしておくのは不憫だ。だから、私が仲間の眠る花壇にやさしく葬(ほおむ)ってあげよう。
 そして我が身の老い先を思い、名残の薔薇に自分自身を重ねて、私もおまえの後に続くだろうと予言します。
・ 友情が朽ち去り友達がみんないなくなり、愛の輝ける団欒の輪、一家団欒の輪から、宝石のような大切な人たち、かけがえのない家族が失われる、その時に。
心を許しあった人が枯れ果て、老いて旅立ち、愛しき者たちも去ってしまう、その時に。私は後につづくと。
・ そんな仲間も家族もいない凍える世界で誰が生きていけるだろう。
人が年老いて、たった一人になってしまう寂寥を痛切なまでに謳っています。メロディーの美しさとは反対に、ずいぶん寂しい詩ですが、その嘆きを裏返せばいかに仲間や家族の存在がすばらしいものかを訴えているのです。
・ 日本版の「庭の千草」では、人の高潔な生き方を讃美する内容となっています。
千草(=雑草)も枯れ果て、虫の音も絶えた冬枯れの庭に、遅咲きの白菊がけだかく咲いています。露の重みに耐え、霜の冷たさにも負けず、凛と咲いている。人もこの白菊のように節操をもって生きたいものだ、と。                       **********************************************************************
 177     ・ お気に入り川柳
             太陽を 七十七回まわりけり    (ボーフラ爺)  
                 
             休ませし 骨のうめきが朝を告げ (よしやす)

             全身痛 生きて動いた勲章か    ( N  爺) 

             同い年 庭の木はまだ花咲かせ  (徹 夜)

             他の人の 句を拝見し心晴れ   (野の花) 

              
  

Posted by あおなみ遊子 at 16:50Comments(0)TrackBack(0)